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TOP > 日々のたより>2005年5月20日

日々のたより

続 イカウシの森に暮らして (2) 
あれっ? 女王蜂が見当たらない!

 ハチたちが生きていたことは確かなのだが、これか彼女らがまた、大いに活躍する季節になるまでが、何ともじれったい。だってまだ外は雪で真っ白。花どころか、土さえ見えないんだもの。ストックした蜜は足りるだろうか、除雪したから、かえって箱に寒い風が直撃して凍えてしまわないだろうか。私だってまだダウンジャケット着ているんだし。心配の種は尽きることがない。
そしてこの時期、本州での桜開花情報を耳にするたび、腹が立ってくるのだ。さくらだあ? まだこっちはフキノトウだって見てないよ。ざくざく雪をふみしめながら、さらに二週間はやきもきしなければならない。ひたすら、緑が芽吹くのを待つしかない。人間は何もしてやれない。

女王様を探している著者(手前)とイカウシ蜂部のカーイさん。 
 春、一番最初にミツバチに恵みを与えてくれる植物は、何とネコヤナギだ。あのネコヤナギのぽやぽやした花とも言えないようなモノから蜜が採れるとは知らなかった。全ての木の中で一番最初に芽吹く柳には特別な力が宿っているのかもしれない。そうとしか思えない。だって、この蜜を食べたハチたちは、あっというまに元気を取り戻し、女王は産卵を始め、働きバチ総出で蜂児っち(ハチの赤ちゃん、幼虫。専門用語で蜂児、というのだが、あんまりカワイイので私たちは、ほーじっち、と呼んでいる)を育て始める。
 まだらに残った雪の間から奇跡のようにクロッカスの花が咲くと、ミツバチたちは、まだ開き切っていない花にもぐりこんで、黄金色の花粉を集めて回る。その忙しそうなこと。私がすぐ側で見ていても、私の存在など全く無視して、巣箱と花の間を絶え間なく往復している。植物にしてみたらミツバチは、授粉を助けてくれるキューピッドなわけで、この絶妙なギヴアンドテイクは、神秘としか言いようがない。多くの蜜を湛えた植物にはハチの目で見ると「ここに蜜がありますよ」という印が見えるようになっているらしい。
 なぜそうなのか、だれにもわからないのだろうが、こんな身近な自然の中にさえ、互いに完璧ともいえるつながりがあり、何ひとつ過不足なく、全ては関係しあって互いを生かしあっている様子を見ることができる。私にとってミツバチは平和の使徒であり、こうやって花やミツバチを見ていると、時間を忘れる。それは本当に大切なものに触れられる瞬間だ。こういうのを神話的時間、というのかな。
 ようやくフキノトウが顔を出し、ここまで来ると怒涛のように一気に地面から毎日新しい緑の芽が吹き出す。地面に張り付くように咲く、春先の小さな草花は、つつましい姿の中に秘められた力を持っている。爆発するように一気に花を咲かせる。朝と夕方では姿が違うほど、成長する。ハチたちも同じだ。巣箱を観察すると、もはや、新しい蜜を貯蔵し始めている。どんどん子供を育てあげ、箱の中は勢いのある羽音に満ちる。

 おお見事な復活、と喜んだのもつかのま、何だか元気のない箱が1つだけあって、中のハチたちも動きが鈍い。蜂児っちも見当たらない。あれ? と思って女王蜂を探すのだが、どこにも見当たらない。女王不在のミツバチの群は、働き蜂の子を、むりやり女王に仕立てて(急きょ、庶民の子にロイヤルゼリーなど食わせると、一応形だけそれらしく変身するそうだ)急場をしのぐそうだが、そういう「にわか女王」は産卵が少なかったりして、結局はうまく群を維持してゆくのが難しいという。うーん、この群を救うにはどうしたらいいのか。せっかく越冬したのだもの、何とか救ってやらねば…。
 さっそく、この道40年? 50年? 生まれたときからハチと暮している「ハチおじさん」こと、わが師匠の元に駆け込んだ。
どうなったかは、次回のおたのしみ。(つづく)

(2005.5.20/花房葉子『カムイブロートの食卓』著者

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