| TOP > 日々のたより>2005年5月19日 |
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続 イカウシの森に暮らして (1)
春一番の仕事は「ハチ掘り」から
確かに、ほんの少し、おひさまの光は強くなり、空の色は柔らかくなって来た。だけど雪は一向に溶け出す気配もなく、大地は凍てついたまま。四月の終わりになってもまだ容赦なく雪は新たに降り、その春の雪は、真冬に降る雪と違い、重く、湿って陰惨だ。もう、永遠に春はやって来ないような気さえする。北海道の四月は一年の中で、最も憂鬱な季節。
まだ、私の膝まである雪をかきわけて、昨年の晩秋に断熱材で囲ったミツバチたち
の箱の前まで行ってみた。南側だけ、少し雪が溶けて、土が見えている。そしてハチ
の出入り口付近に私が見たものは、おびただしい数のミツバチの死骸だった。こんも
り山になってハチが死んでいる。ああやっぱり。マイナス20度にもなるこの厳寒地
でミツバチの越冬などむりだったのだ。雪かきスコップを持ってきて、ハチ箱のまわ
りを除雪し、一応、中を確認するために箱のふたをあけてみた。
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| フタを開けたら、ハチが飛び出してきた! |
全滅かと思われた箱をあけたとたん、あのなつかしい羽音が聞こえるではないか!
ミツバチたちは、見事に厳しい冬を生き延びていた。「生きてる!」と私は思わず
叫んでしまった。生きているにおい、生きている温度、を確かに感じたそのとき、雲間から太陽の光がハチ箱の中に差し込んだ。するといっせいにミツバチたちが外に飛び出してきた。白い雪の上を、金色のミツバチが飛び回る。
雪かきスコップを手に持ったまま呆然と、飛び回るハチたちを眺める。まだ信じられない気分だ。ふと見ると、私が来ている白い作業服に、いちめん、黄色いシミができている。さっきまで真っ白だった雪野原にも、黄色いシミがポチポチと……。よく見ると、ハチが、お尻からピュッ、ピュッ、とこの黄色い液体を出しているのがわかる。一緒に作業をしていた麦さんが「あっ、ダップン、ダップン」という。ダップン?
この黄色いシミは、実はミツバチが越冬中、数カ月の間、身体の中に溜め込んでいた排泄物なのだという。彼女らは、けっして巣の中を汚さない。その忍耐、そのプライド。おびただしい数の出入り口付近の死骸も、考えてみると、役割を終えて倒れたハチの死骸を、せっせと仲間が外に運び出していたのだろう。あんな寒い気温の中で。その使命感、何か、大いなる意志に従って女王蜂を中心とした群という生命をつなぐための「道具」に成り切るハチの姿は無私の象徴というか、私にとっては、たかがミツバチとはいえ、やはり感動的だ。感情移入し過ぎだろうか。だけどこの厳しい冬を、言ってみれば「命がけ」でともに乗り越えたという喜びを、ハチとわかちあえるとは思わなかったなあ。これは、暖かい地方に住む人にはたぶん分からない、じんと重たい、厳粛な無言の感動だ。
ハチの「ダップン」もなんだかかわいくて、作業服をすぐ洗濯しないで、いろんな人たちに「ホラ、これがハチのダップン、すごいでしょ」とみせびらかしてから、やっと洗った。(つづく)
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