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TOP > 日々のたより>2007年4月25日

日々のたより

  手を合わせて祈る先には

 いつ頃からか、初詣に行くと、「おじいちゃん今年もよろしくお願いします」と、手を合せて亡くなった祖父に祈っている。年子で弟が生まれたせいか、私はおじいちゃん子だった。仏壇職人だった祖父が仕事をしている傍らで過ごした時間が、子ども時代の幸福な記憶。私が小学校に上がる少し前に、祖父は尿瓶が必要な人になり、いつも仕事をしていた部屋で亡くなった。臨終のときに私の名を呼んだのに、手を握ることができなかった。無条件に可愛がってくれた人として祖父は私のなかで生き続けてきた。
 『天に近い山から』(小社より今年2月に発行)の原稿を初めて読んだとき、著者坂根さんの喪失の経験は自分にも重なることとして静かに染み込んできた。13年前、2歳の誕生日を間もなく迎えようとしていた坂根さんの次女春菜ちゃんは、鉄道事故で天に還っていった。生きていたら、私の娘と同じ歳。そのことにも胸を衝かれた。
 そして、たぶん私のほうがそちらに向き直ったからだろうか、何かの拍子にそこに触れると涙の海に還っていきそうになる祖父との別れが、四十数年を経て自分の宝にもなっていたことに気づかされていった。
 坂根さんは4回の出産をすべて自宅で迎えている。春菜ちゃんの死後はカリフォルニア山中の「天に近い山」エルクバレーでの電気も水道もない暮しを選び、そこで山火事を経験する。都会にあふれる便利をあえて捨てて、人が用意したレールに乗らない暮しは危険とも隣り合わせだけれど、何と啓示に満ちてもいるのだろう。この本に導かれたかのように、次々と亡くなった人からのメッセージや、身近な人の死をどう受け容れていったかといったことを綴った本に出会い、今もまだ扉が開き続けているような気持ちだ。

 そうやって出会った中の一冊に柳田邦男さんの、『言葉の力、生きる力』(新潮文庫)がある。表紙に使われている写真は星野道夫さんが雪原の中を歩く母子連れの熊の姿を空中から撮影したロングショット。坂根さんが『天に近い山から』のプロローグで引用しているクリーインディアンの詩は星野さんの著書『森と氷河と鯨』(世界文化社)に掲載されていたもので、ここにも少なからず縁を感じてしまった。
 柳田さんは、この本の中の「「成熟」という心の座標軸」と題した文章の中で、亡くなった息子さんが不思議な偶然という形で何度も自分の前に現われてくる体験を記しながら、「愛する者の死がもたらすものは、ネガティブなものだけではない。物凄くポジティブなものももたらしてくれるのだ」と思うようになっていたと、喪失体験をとらえている。

 そうかもしれない。富山大空襲で12歳のときに両親と妹たちを喪った私の母は、自分を不幸と語ったことがない。
 製本所からできたての『天に近い山から』が届いた朝、思わず手を合せて「春菜ちゃんありがとう」と言わずにはいられなかった。

         
(2007.4.25/山木美恵子 自然食通信社編集部)

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